「プライベート・クラウド」ってなんだ?


あまりいろいろなものが「クラウド」を名乗のっているので、ときどき「クラウドってなんなの?」と考えてしまいます。そんなわけで、「プライベート・クラウド」についてお話する前に、まずこの「クラウドってなんなの?」から。

そもそも「クラウド」ってなんだ!?

「そこに有るサーバ装置(そして、そのハードディスクの中)には、このアプリケーションがはいってます」というような「個別の装置についての物理依存性、位地依存性」から自由になったサービスを収容した空間や、そういうサービスの存在の様態そのものを「クラウド」と呼んでいると考えると、「クラウド」や「クラウド対応」をうたっているいずれの例にも「クラウド認定」ができそうです。

以下の分類は、あくまで私たちが直観的につけた名前であり、公に認知されている用語ではありませんのであしからず。でも、きっと多くの方にうなずいていただけると思います。

「移動プロファイル」型なクラウド利用

一番身近な例では、IE、Firefox、Chromeなどのブラウザが「クラウド対応」を歌っています。OneDrive、Googleドライブなど、それぞれのブラウザ・メーカが運営しているクラウドにアカウントを作ると、お気に入り、検索クエリーの履歴など、様々なユーザデータが「クラウド」から提供されるようになり、どんなデヴァイスでアクセスしても同じ環境が得られます。アカウント登録の結果ネットワークストレージが提供され、そこに、各アプリのデータが記録され、そのアカウントでアプリにログインした場合には、ネットワークストレージからデータが与えられる、という、Microsoft社のActive Directoryの「移動プロファイル」のような振る舞いと効果です。

仮想ホスト型クライアント

  Windowsパソコンのプログラム実行環境をサーバ側に収容し、クライアント・デヴァイスとは、VNCやSpiceのようなプロトコルを経由して、画面やキーボード、マウス、USBポートなどのUI情報をやりとりするものです。クラウド化されたデスクトップは、どんなデヴァイスから利用しても同じ状態(というよりも同じパソコン)です。これは形態的には、一時期流行した「Thin Client」とあまり変わらないですね。

仮想ホスト型サーバ

サーバの場合、もともとアプリケーションの利用者がそのアプリケーションが入っているサーバを目にすることは中小企業の社内イントラネットなどをのぞけばないことですから、「クラウド化」されたときの違いに利用者はあまり関心をもつことができないでしょう。サーバの仮想ホスト化の恩恵がサーバの管理者のものです。

「水道の蛇口をひねると、サーバのサービスが流れてくる。要らなくなったら蛇口をひねって止める」このように「従量課金で利用可能、かつスケーラブルなレンタルサーバ」というのが当面、クラウドサーバの意味でしょう。

で、プライベート・クラウドってなんだ?!

「プライベート・クラウド」はもうひとつの「パブリック・クラウド」と対になった概念で、いずれも、上のほうで分類した「仮想ホスト型サーバ」や「仮想ホスト型クライアント」に関するものです(まだ、それほど普及していませんが「仮想ホスト型クライアント」のクラウドサービスを提供している会社もあります。自前で構築すると、これもプライベート・クラウドです)。パブリック・クラウドが、ISPやクラウド業者が提供する仮想化プラットフォーム上の仮想サーバや仮想パソコンのレンタル・サービスであるのにたいして、個別の企業が自社内部での利用のために仮想プラットフォームを自前で構築したものを指します。

プライベート・クラウドの特長

便利なパブリック・クラウド。でも…

「パブリック・クラウド」は自社でハードウェァ、ソフトウェアを調達することなく、必要な期間に必要な仕様でサーバやパソコンをネットワーク経由で利用できるというサービスです。個人でも気楽に借りてWEBサーバを構築できるような低価格のものから、CPU、メモリを増強、さらにロードバランサによる複数台のサーバの負荷分散機能の利用にいたるまで、高価なハイスペックのものまでさまざまなものが提供されています。

パブリック・クラウドにはまかせられないこと

一方、パブリック・クラウドは、複数の見知らぬユーザが同じサーバハードウェア、同じストレージさらに同じネットワークを共同で利用しています。各ホスト上のIPTABLESにすべてをゆだねて、ファイアーウォールを提供していない業者さんも相当数おられます。したがって、ネットワーク環境としては、見ず知らずの他人が社内ネットワークに多数いるような環境でもあります。情報資源を、一民間企業の、このような「ルームシェア的環境」にあずけるのですから、パブリック・クラウドに基幹業務を構築して漏えいや改ざんが経営に大きなインパクトを与えかねない性格のデータを処理するのは避けざるを得ませんね。

また、月次集計で、大量のデータをバッチ処理するようなアプリケーションでは、「処理の終了はいつも期限すれすれ」というようにバッチ処理能力で慢性的に悩んでおられるユーザ企業もすくなくありません。演算資源やディスクアクセスを、他人と共同利用し、WAN経由で利用する以上、パブリック・クラウドの仮想サーバで企業施設内の専用サーバと同等あるいはそれ以上の能力を発揮してくれるかははなはだ疑問です。

クラウドの便利さ、柔軟さを自社内の設備で

自社サーバの処理性能やデータ・セキュリティの高さを維持しつつ、クラウドの柔軟性を基幹業務に利用しようという、便利で欲張りなシステム思想が、「プライベート・クラウド」です。

また、「サーバのリースがそろそろ切れるけど、今使っている業務アプリは最近のサーバやOSでは使えないようだ」というような場合、パブリック・クラウドは大きく貢献します。マイグレーション用のユーティリティにより、今使っているサーバをそのまま仮想化してクラウドに移植ということもできるからです(注:ただし、Ovirt,VmWare,RHEVのような「完全な仮想化」により、ゲストOSに専用のものが必要ない環境にかぎられます。Xenのパラヴァーチャルのような擬似仮想化では対応できない場合が多いです。)。

 必要な道具はパブリッククラウドと全く同じ

パブリッククラウドの多くは、VmWare、RHEV、Xenベースの市販製品などの仮想化プラットフォームを使っています。ハードウェアの構成は、大型のネットワークス・トレージ、CPUのコア数とメモリ実装容量を大幅に強化した仮想ホスト実行用のホスト、それに管理用のホストなどで構成されます。パブリック・クラウドも規模の大小の違いがあるだけで、道具だては全く同じです。